2010年5月10日月曜日

あさりよしとお短篇集 ― 毒入り錠剤篇

 私はあさりよしとおのファンなので、新刊が出たら買ってしまうんですね。今回買ったのは短編集。『毒入りカプセル篇』と『毒入り錠剤篇』。昔の短編が詰め込まれた2冊なのですが、すべてが単行本未収録というわけでもないので、あー、読んだことあるなあ、と思ったものもちらほら。でも、見たことのないものの方がずっと多いので、楽しんで読むことができました。今回の2冊に収録された中で、もっとも楽しく読んだのはなにかというと『毒入り錠剤篇』に収録の『重箱の隅』であったように思います。

ただ、もやもやしてくるんですけどね。『重箱の隅』は漫画としてよりも、業界曝露ものといった色が濃くて、クソゲー、つまらないゲームができる背景やら、つまらないアニメができる理由やらが語られて、そしてしまいにはメディアについて、あるいは日本人についてにいきあたる、そんな見開き連載が3年分かな? 全32話、収録されています。

この『重箱の隅』が連載されていたのは、1993年から1995年。前世紀、平成もまだ一桁のころですね。この頃人気のアニメといったらセーラームーンかな。また、セーラームーンフォロワーともいえる類似品がどばどばリリースされた頃でもあります。私的なことではありますが、私が情熱を持ってアニメを見ていたのがこの頃でした。だから、なんとなくでも当時の雰囲気がよくわかって、しかしこの時点でこの酷いいわれよう。でも、わかる気がしますけどね。私がアニメを全話録画して見るようになったのはこの頃だから、何度でも見返して、いいな、酷いな、なんだこれ、いろいろ感じたこと、その背景はこれか、これなのか。わかるような、わかって悲しいような、けど実はいろいろ聞いて知ってたことだったりもして、おそらくはあさりよしとおやその周辺の人たちの、こうした啓蒙、愚痴? のあったために、私のような下流にまで情報が伝わってきたのだろうなあ。なんて思います。

曝露といっても、実名あげて、具体的に批判するというような本ではありません。業界の状況については書く、けれど具体名は出さない。ほのめかす程度。ただ、まれに伏せ字になっている、その先がわかることもあるっていう感じですね。だから変にもやもやするのですけれど、けどこの連載が批判しようとしているのは、個々のアニメ番組というよりも、それらを生みだす業界であり、またその業界を取り巻くものについてです。さらには私たち日本人の気質や性質といったものにまで及んでくる。この人はこうしたこと、ものに対してずっと思ってきてるんだろうなあと、そんな気になったのですね。

ちょうどこの少し前に連載していた『ただいま寄生中』でも、同様のテーマが描かれてましたっけ。自分で考えず、人の考えに同調していくことで、周囲の状況はどんどん悪化していくんだ、みたいなこと。『重箱の隅』では最後にテレビを例として、同調圧力のこわさを説明しているのですが、先にもいいましたようにこの連載は15年ほど前のこと。けど、妙に古びていない、今でも通じるところが大きいというのが嫌なところで、そう、今もおんなじようなことを、いろんな人がいっています。変わってないなあ、いや、むしろ悪くなってる? なんともいえない読後感に、やっぱりもやもやするのでした。

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