2008年9月7日日曜日

スタミナ天使

  私にとって、山田まりおという作家は『スーパーOLバカ女の祭典』の作者という印象がずっと強くあって、ですがこの強すぎる印象が、『バカ女』以外に目を向けさせないというところがあったと、今ではそのように思っています。その『バカ女』にしても、初期のインパクトの強さが、実際以上にその評価を肥大させながら今に至るまで残り続けていて、最初はよかったけど最近はちょっとなど、そんな風に思わせるところもあったかも知れません。ですが読み返してみると、確実に読ませるものに進化してきているんです。『バカ女』だってそうだし、他の漫画だってそうだしで、だから昔はよかったといって、昔を実際以上に美化してしまうことはよくないと、今の価値を見失わせてしまうと、そのように思ったのですね。

『スタミナ天使』は、山田まりおお得意といったらいいのでしょうか、迷惑な主人公が繰り広げるどたばたのコメディであるのですが、主人公は御所車諭吉、金持ちを鼻にかける、わけじゃないけど、結果的に鼻にかかってしまっている、そんな高校生。けれど彼はメインじゃない。いや、私の中でメインでないだけかも知れないけど、ともかく彼はメインじゃない。メインは、諭吉に仕える変態執事、天河です。いや、違うんだけどさ、けど私にとっては天河は外せません。雇われ先の坊ちゃんに変態的愛着を示す美青年。鬼畜眼鏡のカテゴリーなんでしょうか、ホモっぽいネタでセクハラを連発する、そんな天河に私はめろめろ。BL/ML系で培ったきらりと光る表現の数々、本当に素敵です。

というのは置いておいて、メインは諭吉のボディガードとして導入されたロボット、緑でしょう。無口な美少女。ロボットというのだけど、どう見てもロボットとは思えない、お前人間だろというのは定番のつっこみですが、この緑がよいのだと思います。世間知らずで、同じく世間知らずの諭吉様に付き従って、その献身は感動的。当初は、そうした面はあんまり出ていなかったですけど、第2巻に収録された落ちぶれ逃亡生活編ではまさしくそうした面が強く出ていました。基本はコメディ、ギャグがばんばん出てくる漫画なのに、時にふと人の心のいじらしさが描かれる、それが効くんです。ばかばかしさの強いギャグに笑って、心が開いていくんでしょうね、そこに来るから、どんと突かれて、ぐっと胸が詰まる。馬鹿な話で、不器用な緑に、ろくでなしの諭吉。けれどそんな彼らの間に繋がる情のようなものが見える。緑は、自分がロボットである(ことになっている?)から、諭吉に誠心誠意仕えているのか、あるいは違うのか。諭吉は、あまりに寡黙で謎も多すぎる緑に対し、様々な思い募らせながら、しかし他の誰にも見せない態度、表情を見せる。

この漫画を読む時は、そうした情緒における表現にも目を向けたい、いや、目を向けないではいられないところがあるんです。

けど基本的にはどたばたで、私のお気に入りは先にもいいましたように、天河のセクハラトークですが、正直あれを見るたびに、いいぞ、もっとやれ! って思っているのですが、同様に不遇な友人武内君も好きで、彼はもっぱら諭吉にひどい目に遭わされる役割を担っていますが、それでもなんのかんのいって付き合ってくれる、いい奴なんだと思います。彼にとっては腐れ縁でしかないはずなのに、折りに触れ親身になってくれる(ならないではいられない?)、そうしたところが変に心に訴える、そう思っています。

けれどやっぱり軸には、諭吉と緑の関係があるのでしょうね。この先どうなるのか、ちっとも予想さえできないけれど、諭吉はどうあれ、緑が仕合わせになってくれるといいなあ。かくのごとく、やはりメインは緑の漫画なのであります。

  • 山田まりお『スタミナ天使』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2007年。
  • 山田まりお『スタミナ天使』第2巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2008年。
  • 以下続刊

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