2008年7月23日水曜日

FLIP-FLAP

 WindowsとMacintoshはいったいどちらが優れているのか。私はこの手の不毛な問い掛けが大嫌いです。だって、罵りあわねばならないほどに両者に違いはないのだもの。ユーザーインターフェイスに関しても、使い慣れたほうがいいOSという程度のものに過ぎず、だからどちらかを必要以上にくさす意見に対しては、この人は見場が変われば本質にたどり着けない程度の人間なのだと、そう思うようにしています。さて、そんな私でも認めなければならないことがあります。それはWindowsのあるアドバンテージなのですが、なにかといいますと — 、付属のゲームです。なんと、Windowsには標準でピンボールがついてくるのですよ。それもしっかり遊べるレベルのピンボールが! これは本当にうらやましかったですね。私はピンボールが好きなのです。残念ながら貧乏なので、実機の経験は乏しいのですが、Macintosh用のピンボールゲーム買って、黙々と打ち込んだ日々もありました。私がコンピュータを買った頃って、ピンボールソフトが結構あったんですよね。最近ではあまり目にしなくなりましたけれど、時に無性に遊びたくなる、ピンボールにはそういう魅力があるのです。こんな私です。とよ田みのるの『FLIP-FLAP』に引きつけられたというのは自然なことでありました。

『FLIP-FLAP』は、世にも珍しいピンボールを取り上げた漫画です。その出会いは運命的。『百舌谷さん逆上する』読みたさに、というか、篠房六郎を追って購読を開始した『月刊アフタヌーン』の、買いはじめた号に連載の第一回が掲載されていたのでした。

それはそれは衝撃的でしたよ。独特の絵柄は、作者固有のセンスを前面に押し出して濃密で、うっと息が詰まるくらいの密度で描き込まれています。題材に目を向ければピンボール、あの地味で、どれくらい潜在プレイヤーがいるのかわからないピンボール。これだけでも充分驚きだったというのに、さらにすごいのが、ラブコメをやるっていうんです。高校卒業をきっかけに、ずっと思い続けていた山田さんに告白した深町君が誘われたのがピンボールでした。つきあうための条件、それはハイスコアを塗り替えるというもの。三十億点あまりのスコアを前に、ひるみながらも未知なる世界に踏み込むことを決意する深町。そして彼がピンボールを通して得たものとはなにであったのか。深町と山田のボーイ・ミーツ・ガールを描きながら、同時に深町の世界との向き合いも描いた、意欲的な漫画であったと思います。

けれど、たかがピンボールです。けれど、そのただボールをはね上げてターゲットにぶつけるだけのゲームが面白いんです。そして、この漫画はピンボールの面白さをよく表現していました。面白さは、ただ深町の変化を見ているだけでも感じられます。最初は、どことなく漫然とプレイしていた彼が、だんだんにのめり込んでいくのですね。ボールの動きに一喜一憂し、ボールのロスに叫び声をあげ、そして渾身の揺らし。ただのゲームに、食らいつかんばかりに前のめりになって打ち込む、その姿が美しい。ピンボールなんて、うまくなってもなんの得にもならないんだけど、でもそれでも一心に打ち込む姿は美しい。山田がいいます。

本気でやってる人間は それだけで人を魅きつけるんです!!

この漫画からは、深町をはじめとする、ピンボーラーたちの本気のほどが伝わってきて、しびれます。いや、ここは彼らの流儀でいいたい。震えるんです。一挙一動に、心が持っていかれてしまって、震えるんです。それはもう震えるんですよ。

この漫画が終わった時、正直戸惑いました。あんなに面白かったのに。好きだったのに、もう終わるのか。なんで!? けれど、一巻もののサイズ、一気に読みきれるくらいの長さがむしろよかったのかも知れないと今では思っています。中だるみなく、深町と山田の、あるいは深町とピンボールの物語を駆け抜けることができて、そして心は震えっぱなし。よい漫画でした。もし私がピンボールを知らなかったとしても、読めばきっと震えたろう、そう思わせる、独特の重力をもった漫画であります。

  • とよ田みのる『FLIP-FLAP』(アフタヌーンKC) 東京:講談社,2008年。

引用

  • とよ田みのる『FLIP-FLAP』(東京:講談社,2008年)112頁。

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