2007年5月30日水曜日

ワンダフルデイズ

  荒井チェリーという人の漫画は、始まった当初こそはあまりぱっとしないという感じがあるのですが、読み続けているうちにすっかり好きになってしまうという、そういうパターンが多いような気がします。絵にしてもネタにしても穏当であるためでしょうか、ことスタートダッシュに関しては不利であるのだけれど、一年読めばその印象はがらっと変わってしまう。『ワンダフルデイズ』なんてまさにそうだものなあ。ヒロインは薄幸の女性、皮肉にもその名前はさちといいます。くじの類いは当たったことがなく、部屋を借りれば幽霊付きといったような、そういう間の悪さ、運の悪さでできているような人です。しかし、この度入居した岡田荘はちょっと違っていた。というのがこの漫画の出だしです。して、なにが違っていたのかといいますと、さっちゃんの入居した部屋には座敷童がついていたのです。

けど、それでめでたしめでたしにならないのは予想のとおり。その座敷童というのがくせもので、座敷童というのにその実ちっとも童でない。すっかり育っちゃってるし、昼間っから酒飲んで、ごろごろして、遊んで、そしてなんといってもその御利益が薄いときた。というようなわけで、さっちゃんはまたなんだか厄介な物件を引き当ててしまったのでした。

というような話かと思っていたのですが、いやあ参りましたね、まさかこの状態からぐいぐいと話が進んでいくとは思っていませんでした。それこそ当初こそは、御利益の薄い座敷童との同居コメディ、しかも他の入居者もおしなべて妖異怪異の類いだし、こりゃどういったどたばた系になるかと思っていたらば、思いのほかのほのぼの人情系。人外の入居者たちも、その存在はさておいても、皆それぞれに常識人ばかりで、むしろ人間の管理人が微妙……、いやいい人なんですけどね、と、こんな風な転倒した価値観の中で、助け合いながら、お世話になりながら、毎日を頑張って暮らしているさっちゃんを応援する漫画です。

と思っていたんです。第1巻時点では。いやあ参りましたね。まさか、この一旦確保された安定的シチュエーションを崩しかねない話の進み方をされるとは思いも寄りませんでした。しかも、これが結構いいんです。ネタバレになるからいいたくない。だからその周辺だけをちょろっというならば、まさかこの微温的漫画に過去のどうこうというのが関わってくるだなんて思いもしなかったし、それにまさかこの漫画の核になってる部分を動かしてまで、状況を変化させるだなんて。第2巻はちょうどその変化の訪れるあたりで終わります。

私はそもそも変化というのが嫌いなんです。昨日と同じように今日が過ぎ、明日もまた同じような日がくることを願っている、そんな一種駄目なところのある人間なのですが、この変化嫌いの私が、『ワンダフルデイズ』の動きに関しては興味津々で、これはもしかしたらこのまま終わっちゃうんじゃないかなんて心配しながらも、先が楽しみで仕方がない。いや、先に対する興味だけではなく、この変化そのものに対する興味、変化を引き起こした登場人物の心の動きへの思いも同じく強く、これはちょっといいですよ。正直、どういう方向に向かうんだろう。おそらくは数ヶ月のうちにはその答の一端は出るのではないかと思っているのですが、それがすごく楽しみであるのです。

私はそもそも荒井チェリーの漫画が好きで、『まんがタイムきらら』を購読するようになったのも、『三者三葉』読みたさででした。そして、多分今連載されている荒井漫画の中では、おそらく『ワンダフルデイズ』を一番楽しみにしていると思います。もちろん『三者三葉』も楽しいし、『ハッピーとれいるず!』も動きが出てきはじめた頃、そのどれも好きなのですが、けれど今は『ワンダフルデイズ』が一番です。そして、もしかしたらその話の展開次第では、私の中での荒井チェリーベストとして確定するんではないかと、そんな予感がしています。

蛇足

長谷川珠季がいいです。クール&ビューティ。そしてちょっと不器用もの。身近にこんな娘がいたら、ちょっとほっとかないですよ。といっちゃうくらい好きです。

  • 荒井チェリー『ワンダフルデイズ』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2006年。
  • 荒井チェリー『ワンダフルデイズ』第2巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2007年。
  • 以下続刊

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