2007年2月7日水曜日

ひがわり娘

 ストーリーやるでなく、恋愛に走るでもなく、がっつりとネタで勝負する小坂俊史の代表作っちゃあ代表作、『ひがわり娘』の最終巻は本日発売です。てなもんで買いましたよ。いやあ、あとがきによれば七年半続いたそうでして、改めて振り返ってみれば長い連載だったんですね。けど、毎回毎回をすごく新鮮な気持ちで楽しみに読むことができたものですから、正直こんなに長い連載だなんて今日の今日まで思いもしていませんでした。けれど思い起こせば、私が前の職場にいた頃に、すでにこの漫画は中堅の位置を占めていたのですから、やっぱりそれだけの時間が過ぎ去っていたんだなあ。そう考えると、なんだか感慨深いものがあります。

さて、『ひがわり娘』っていうのがどういう漫画であるかといいますと、ジャンルとしてはナンセンスコメディ、あるいはシチュエーションコメディといってもいいのかな。登場人物は希代のへっぽこヒロイン笹木まみに、飯田ナツコと中尾みちえがサブを固めるというトリオスタイル。以上。これだけわかっていれば、充分楽しく読むことができる漫画です。

この漫画の面白いところは、登場人物が固定されているだけで、舞台設定をはじめとするシチュエーションが毎回がらっと変えられるところにあります。笹木さんは基本的にフリーターで、だから毎回仕事が違ってる。けど笹木さんの変化はそれだけにとどまらなくて、あるときはコメディアンだったり歌手だったり、またあるときはスポーツマンだったり新聞記者だったり、職業の違いにとどまらず幼稚園児だなんてこともあったりして、笹木飯田中尾の三人組の関係も、毎回毎回ちょっとずつ違いがあったりするものだから、もう開けてみるまでその面白さがわからない。『ひがわり娘』はこんな感じにスリリングな構造を持った漫画でありますが、けれど読んでみるとすごく馬鹿馬鹿しくナンセンスで、笹木まみのこのうえもないろくでなしっぷりが実によく脱力させてくれてるという塩梅。とにかく読んでみればわかります。面白いんです、めちゃくちゃ面白いんですから。

でも、実をいうと私は笹木まみ的生き方に憧れているようなところがあるような気もします。笹木まみ的とは、打たれ強さでありしぶとさであり、明日は明日の風が吹くさと、なにがあろうとからからと笑って暮らしていくような無頼の生き方なんじゃないだろうかとそんな感じがして、だって転がる石には苔は生えないというじゃないですか。重なっていくキャリアやなにかは確かにないかも知れないけれど、積み重なって重く重くなっていく年月の垢やしがらみなんかからは自由であると思えるものだから、なんかそういう生き方だってあっていいよね。むしろこういう生き方を選択できない時代、こういう生き方が不幸に直結していると思えるような社会っていうのが不健康なんだって、そんな風に思うのです。

そんなわけで、私は笹木まみ的生き方を応援したいと思っております。かっこいいよ、笹木さん! 本当にそう思うのであります。

  • 小坂俊史『ひがわり娘』第1巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2001年。
  • 小坂俊史『ひがわり娘』第2巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2002年。
  • 小坂俊史『ひがわり娘』第3巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2004年。
  • 小坂俊史『ひがわり娘』第4巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2005年。
  • 小坂俊史『ひがわり娘』第5巻 (まんがタイムコミックス) 東京:芳文社,2007年。

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