2006年11月19日日曜日

日本民謡集

  パブリックドメインは宝の山です。パブリックドメインとは共有地、誰のものでもなくなった著作物は共有地に帰り、誰かに使われる日を待っています。それらは読まれ、語られ、歌われ、出版され、録音され、戯曲になり、映画になり、さまざまに姿を変えながら新たな息吹を持って私たちの前に現れます。そうしたPD作品を、文学を軸に収拾しようとしたのが青空文庫Project Gutenbergプロジェクト杉田玄白で、ギター音楽を軸にしたものがDelcamp.net、そしてパブリックドメイン中のパブリックドメインといえる民謡を対象としたものがRoger McGuinn's Folk Den。このようにたくさんの人たちが、おのおののテーマに従って、パブリックドメイン作品の収集公開にいそしんでいらっしゃいます。

もちろん上にあげたものはごくごく一部に過ぎません。私は詳しくないので見送りましたが、ピアノ作品を収集公開している人たちもいらっしゃると聞き及んでいますし、民謡にしても、個人有志を中心として、ネット上にはもう把握しきれないほどの情報が公開されています。その民謡というのも、各国各地の民謡がいろいろ出ているようで、ただ残念ながら私はそれらを網羅的に知るわけではないのです。たまたま興味のある民謡を調べていたら発見したというものが中心で、ですが悲しいかな、こうした収集はどこかに要となるようなものがあるわけでもないようで、だから分散多発個別的になされているというのが現状であるようです。

私はギターを持って歌を歌おうというものですが、なじかは知らねど心民謡に向かって、それは以前にも紹介しました、Folksongs of Britain and IrelandOne Hundred English Folksongsの購入というかたちで現れをなしているのですが、しかしなんで日本人の私が民謡といってヨーロッパのそれもイギリスの民謡を歌おうとするの? おまえ、それでも日本人? 日本人ならやっぱ日本民謡だろうみたいにいわれそうな有り様。そう。私も実はそう思っています。同じやるなら、日本民謡もやりたいのですね。

でも、日本民謡に手を出そうとしても、実にリソースが少ないのです。以前、私は音楽系の学生で、それ専門の研究機関にも関わっていたこともあったのですが、しかしそれにしても日本民謡のリソースは少ない。いやいや、日本各地の民謡わらべ歌を集成したような本もあって、それこそ各県別に出ているようなでっかいのもあるんです(例えば『日本わらべ歌全集』)が、けどそれでもなにか違うんです。なにが違うんでしょうね。それは、多分楽譜や音源の有無なんじゃないかと思います。

私、以前、京都の民謡伝承歌の音源のデジタル化に関わったことがあるのですが、それはそれはすごかった。各地のお年寄りに聞き取り調査をした記録の集大成といった感じで、各地各地に歌詞や節回しを少しずつ違えた歌が伝わっていて、こんな歌があるのか、こんな歌もあるのか、おいおいこの歌、歌詞がやばいよ、あ、これは知ってるわ、という感じで聞いて聞いて聞きまくって、けれどそうしたリソースって表に出ることは少なくて、けど本来なら私たちが伝承するはずのものだったんかもなあなんて思ったりもして、そのあたり、非常に複雑な気分です。

日本の民謡についてちょっと知ろうと思えば、岩波の『日本民謡集』あたりが手ごろでよかったりするんですが、けどこれは主に歌詞だけ、楽譜のついているのもありますが、けれど実際にどのように歌われているかを知ることは難しいなというのが私の実感です。昔、岩城宏之がいってたんです。追分のフレーズが使われてる邦人作品を海外オケで取り上げたときに、フルートが結構いい感じに吹いたものだから欲が出た。いろいろアドバイスしたんだそうです。そうしたら、アドバイスすればするほど追分から遠ざかっていってしまって、失敗だったというようなエピソード。楽譜だけではこうなる怖れがあるのです。特に私みたいに西洋音楽で学んできているような人間は危険で、ヨーロッパの民謡でさえ同様、なら日本の民謡ならなおさらでしょう。それくらいに私は自分の文化に伝えられてきている音楽について無知なのです。

昔は民謡歌手なんていう人たちがいて、今でもいらっしゃるんだとは思いますが、でもテレビやラジオで聴いたりするようなことはほとんどなくなりました。こうして民謡は忘れられていくんだろうかと思うと、悲しくなります。危機感もつのります。だから、どこか保存に努めているところがあらば、それを誰もがアクセスできる場に公開してはもらえないものだろうかと、そんな風に思います。

じゃあ、あんたがやれよというのはなしね。私は今、別のPD関係に携わっていて、リソースがいっぱいいっぱいなんです。でも、もし日本民謡の蒐集公開に関われるのなら、参加してみたいなあ。そんな思いもあるから、非常に危険です。

  • 町田嘉章,浅野建二編『日本民謡集』(岩波文庫) 東京:岩波書店,1960年。
  • 町田嘉章,浅野建二編『日本民謡集』(ワイド版岩波文庫) 東京:岩波書店,2004年。

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