2006年4月12日水曜日

RIDE BACK

   ナツノクモ』を目当てに『月刊IKKI』を買いはじめたのはよいけれど、きっとそれだけではすまないというのが私のよいところ(?)で、つまりですね、最初は『ナツノクモ』にしかなかった興味が、他の漫画にも移ってきているのですね。楽しみにしている漫画は今やいくつもあります。今日はその中のひとつ、特に楽しみにしているひとつを紹介しようかと思います。

それはなにかといいますと、カサハラテツローの描く『RIDE BACK』であります。ライドバックというのは、近未来世界で乗用されている人型の乗り物で、けれどロボットというよりかはバイクに近い印象を持っています。そして、その世界というのが、ちょっと私たちからしたら昔の日本を感じさせるような雰囲気を持っておりまして、学生たちが思想の旗の下に連帯してゲバ棒もって闘争しているという、そういうちょっとアナクロチックともいえる世界観とライドバックという近未来が同居する、ちょっと不思議な作風の漫画なのです。

でも、不思議な作風といっても、漫画自体はすごくビビッドで、肌にぴしぴしと向かい風の当たるような、そんな勢い、疾走感にあふれています。主人公は尾形琳、ダンサーになるべく入った大学で闘争に巻き込まれ、真っ赤なライドバックを駆る姿がまさに闘争を牽引する先鋒となった。本当なら一生そういうことにはかかわり合いにならなかったかも知れない女の子が、あれよあれよと運命に翻弄されていく。その急転のスリリングさ。私は読んでいて、次はどうなるんだろうと、先が気になってしかたがないといった状況にあるのです。

しかし、このひとつの流れを決定づけ引っ張っていくイコンとしてのヒロイン像は見事であるなと思うのです。思い返せば、過去の民衆蜂起にはなんらかそうしたイコンというものがあり、古くはジャンヌ・ダルク、新しくは樺美智子などがあげられるのではないでしょうか。ドラクロアは『民衆を導く自由の女神』という絵画も描いていて、なぜかこうした運動をリードする象徴的な存在をと考えると、女性があらわれてくるのは不思議な気がします。

漫画『RIDE BACK』においては、尾形琳が運動のイコンとなり、参加する学生たちを主導するのですが、けれどこれは善悪二元論のようなもので語られるような漫画ではなくて、世界を統治する機構とそれに対立する組織と学生たち、そのそれぞれにそれぞれの思惑があり、我々読者は琳とともに翻弄されながら、変わっていく。そうなのですね、明らかに運動なんかに興味を持たなかった琳も変化し、成長し、刻々とその色合いを違えていきます。そしてこの世界のありようと、その変化する様を見終えた先にはどういう感想を持つのかというのが、私には楽しみでならないです。

でも、その終着の地点はまだまだ先になりそうですね。ああ、楽しみで待ち遠しいですが、その日がこないことを祈るという矛盾も私の中にあります。ああ、つまりこの漫画が長く続いてくれればきっと嬉しいと思っているのですね。 

  • カサハラテツロー『RIDE BACK』第1巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2004年。
  • カサハラテツロー『RIDE BACK』第2巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2004年。
  • カサハラテツロー『RIDE BACK』第3巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2005年。
  • カサハラテツロー『RIDE BACK』第4巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2005年。
  • カサハラテツロー『RIDE BACK』第5巻 (IKKI COMICS) 東京:小学館,2005年。
  • 以下続刊

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