2006年4月21日金曜日

Beethoven : Piano Sonata No. 21 In C, Op. 53 "Waldstein" played by Artur Schnabel

 iPodで音楽を聴いていると、新たな発見が次々とあるのです。今日、朝、通勤の電車を降りて歩いているときに、彼方に響くようなピアノの連打音が印象的に聞こえてきて、ああ、これは『ヴァルトシュタイン』だ。けれど私はこれをずっと『ハンマークラヴィーア』と思い込んでいて、あの低音の連打音。これは、確か、新しいピアノを手に入れたベートーヴェンがその音域の広がりを確かめるように、新しい表現の可能性を試すようにして書いたものだったはず。そう、この新しいピアノ、つまりハンマークラヴィーアを手にしたベートーヴェンの喜びがあふれるような曲であるから、私はこの曲を『ハンマークラヴィーア』と誤解して覚えてしまった。けれど何度もいいますがソナタ21番は『ヴァルトシュタイン』。ベートーヴェンの中期ピアノソナタにおける傑作であります。

この曲を弾くのはアルトゥール・シュナーベル。これまた私の記憶が確かであれば、我が敬愛するピアニストであるグレン・グールドが、少年時代に憧れていたというピアニスト、それがシュナーベルだったはずです。なので、当時行きつけのCD店にシュナーベルのCDを発見して、私は珍しくピアノものを買ったのでした。けれど、私はさほど貪欲にはこれを聴かず、というのも一度に買うCDが多すぎたのが原因です。シュナーベルは長い間棚にしまわれたままになっていて、iPod時代が訪れてようやく日の目を見ました。それが、かの彼方から響く低音の連打音。一聴して古い録音とわかる。SPからの復刻なのでしょうか。けれど、思いもかけず躍動するベートーヴェンに私はシュナーベルの活躍した時代というものを感じて、ああ、ロマンの時代です。演奏家が演奏家の個性により再創造を積極的に行った時代があったことを改めて思ったのでした。

多分、これが今のピアニストであらば、こんな風には演奏しないでしょう。揺れ動くテンポ、大きくたわんで膨らむフレーズは堂々として豊かで、そこには均整の美よりも表現の躍動がより色濃くあらわれて、やはりこれはロマンティックなのです。今ならこうは弾かないというのは、きっと古典派ベートーヴェンなら古典派らしい表現で、主題の関連を緻密に、分析的に追っていって、各部各部のバランスも確かめながら演奏されるに違いないと思うのです。ところが、かつてはそうしたバランスをよりも、演奏者の個性が重視された時代があって、それはやはりロマンなのです。たっぷりと肉感豊かに、まさに演奏者の、朗々と響かせる声、大げさにしかしダイナミックな手振り身振りが見えるかのような演奏に、私はたまにはこういうのも面白いと思います。もしこれが現在の演奏家によるものならどう思ったかわからないけれど、しかしシュナーベルも悪くないと思って、こういう演奏もありなのだという気になったのでした。

0 件のコメント: