2005年11月29日火曜日

たるとミックス!

  物語からキャラへと漫画の比重が移ってきたという話に以前ちょっと触れたことがありましたが、『まんがタイムきらら』誌はまさにこうしたキャラへの重点移動を仕組んだのであろうなと、そんな風に思います。今、四コマ漫画は、四コマ一本で完結するスタイルもあれば、一回分を使って軽ストーリーを展開するものもあり、そして複数回に渡り重厚にストーリーを見せるものもありと、まさに多様なスタイルにあふれていますが、本来的には四コマ完結を基本スタイルとしており、そういう意味では四コマ漫画においてはキャラよりも起承転結で表現されるネタが重視されてきたわけです。

ですが、今はもう起承転結だけの時代ではない。よりキャラ性が前面に押し出され、むしろキャラ性の希薄なようではいけないと、そういう傾向を強めているのが今の四コマ漫画であると思います。

キャラというのは、視覚的なデザインと、それに付随する記号(属性だなんていったほうがわかりよいですかね)の総和であると思うのですが、一定の諒解のもとで組み合わされた属性によってできあがるキャラの有効性は、馬鹿にできないものであると思います。そもそもこうしたキャラ性に引きつけられるというのは人間の性みたいなもんであるわけで、昔はそうした傾向に歯止めをかけよう、そんなものはしょせんまやかしに過ぎないのじゃ、というそういう考え方があった。けど、今はそうしたものから自由になって、キャラ性への傾倒をおおっぴらにしてはばからない。そういう変化があったのだと思います。

『たるとミックス!』は悪魔退治をなりわいとする双子の兄妹の魂が入れ替わって、というそういう非現実的な前提を持った四コマで、ですがこういうのはもはやお約束といえる範疇であるかと思います。その他たくさん出てくる非常識的な登場人物にしても、そうしたお約束をうまく踏襲していて、こうした漫画を面白いと感じるのは、私と漫画が同一のお約束の範囲にいるという、共感や帰属感が生まれるからではないかと思います。

こうした面白さというのは、一種楽屋落ちに近いものがあるのかも知れません。私にはわかる、というそういう近さがさまざまなネタから感じられ、それら感覚が登場人物に振り向けられることで、登場人物への共感や愛着を引き起こすのかも知れないと、『たるとミックス!』を読んできた感想はそのようなものでした。

実をいうと、私、最初はこの漫画、あんまり好きではなかったのです。読む分には読んでいましたが、あまり面白いと思えなかった。ですがいつしか面白いと思いはじめて、おそらくこれは私がこの漫画の読み方を覚えたということもあるのだと思うのですが、でも多分それだけじゃない。私が、きらら誌や他の媒体をとおして、こうした漫画のスタイルにそぐう感性を身に付けたためであろうと、そんな風に思っています。

四コマ漫画にはいろいろなスタイルがあってといっていましたが、最初に上げたスタイルでいえば、『たるとミックス!』は一回分を使って軽ストーリーを展開するものにあたります。ですが、私はこれら萌え系と呼ばれた四コマに関しては、そうした表面的な分類ではくくれないものがあると思っています。

おそらくは、これこそが物語(四コマならば起承転結)からキャラ性への転向ではないのかと、これが現時点での私の理解です。思えば四コマという形式は、もともとストーリーが希薄でも問題がないのでありますから、キャラの魅力を最大限に生かしうるフォーマットではないかと、そしてそうしたやり方を最初に発揮させてみたのが『あずまんが大王』だったのではないかと。

思い起こせば、『あずまんが大王』を萌え漫画といって罵倒する人がいて(かつて萌え系という表現はあざけりの文脈で使われていました)、『あずまんが大王』ファンはそうじゃないよと、決して接近することのない平行線のような論争めいたものがかつてありました(もちろん、私は後者側)。『あずまんが大王』で萌え漫画であれば、『たるとミックス!』は完全にアンチあずまんがには受け入れられない漫画でしょう。

ですが、私には『たるとミックス!』は面白くて、特に兄貴たるとと妹りぼんの入れ替わりに伴う男性女性性の混乱は面白く、そこへもともと混乱している桐生まことや栗原飛鳥が絡んでくれば、もうどうしようもないくらいでした。神供子とりぼんの確執も好きなテーマで、これらがうまく回転して脂も乗ってきたと思った矢先に終了したのは、かなりのショックでした。

でも、一番いい時期に終わって、惜しまれて、漫画にとってはよかったのかも知れません。その後はじまった『ぷら☆みすらんど』も好感触ですし、私にとって神崎りゅう子はちょっと目を離せない感じになっています。

蛇足

栗原飛鳥はもうとんでもなく大好きでした。なんというか、あのたるとりぼん、桐生まこととの三役揃い踏みの回、最高でしたよ。とりわけまことにしがみついた時の背中のラインの艶めかしさといったら……。私、とならつきあえると思います。

あと、神供子は可愛いですね。ああいうタイプの娘は、あんまり好きじゃないはずなんですが、でも神供子は可愛かった。当然、りぼんも好きです。たるとりぼんやりぼんたるとのほうが好きかも知れませんが。

反省

もっと、『たるとミックス!』のよさを前面に押し出したかったのですが、力及ばず、二転三転支離滅裂、書こうと思ってたことには結局たどり着けず、大変申し訳ないことになってしまいました。

いつか、もっぺん書こう。

余談

テヅカ・イズ・デッド』は、近々にでも読んでみようと思っています。

  • 神崎りゅう子『たるとミックス!』第1巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2005年。
  • 神崎りゅう子『たるとミックス!』第2巻 (まんがタイムKRコミックス) 東京:芳文社,2005年。

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