2005年6月2日木曜日

Rhapsody in Blue

複数のスタイルを組み合わせて新しいものを模索しようという動きは、今も昔も盛んでありますが、もちろんこれは音楽も例外ではありません。古くをいえば、モーツァルトやベートーヴェンといった古典派の音楽家は、トルコ軍楽隊の響きを自作に取り入れていますし、印象派ドビュッシーに影響を与えたのはガムラン音楽であったというのも有名な話で、こんなふうに、新しい響きを求めようという意欲はジャンルの壁を越えるのであります。

ブルックリン生まれの作曲家ジョージ・ガーシュウィンが取り組んだのは、クラシック音楽とジャズの融合でありました。そもそもこれはポール・ホワイトマンにそそのかされたのが最初であったんですが、ガーシュウィンが曲を書き、『大峡谷』で有名なファーディ・グローフェが編曲。こうやって誕生した『ラプソディ・イン・ブルー』は大成功を収めたのだそうです。

『ラプソディ・イン・ブルー』は、冒頭のなまめかしくも特徴的なクラリネットのグリッサンドがきわめてよく知られていますが、中間部の美しさもまたよく愛されて(昔、車のCMで使われていました)、若々しくはつらつとしたメロディの親しみやすさのためかも知れません。とにかく聴いていて嬉しくなるような音楽であると思います。

私の持っている『ラプソディ・イン・ブルー』は、レオナード・バーンスタインが指揮と独奏ピアノを受け持っている盤と、ガーシュウィン演奏のピアノロールを独奏に迎えたマイケル・ティルソン・トーマスの盤なのですが、人に勧めるのなら、私はやっぱりバーンスタインの方がいいんじゃないかなと思うんです。

なぜ、トーマスを勧めないのかというと、アイデアはいいと思うんですが、やっぱり音楽としては下手物一歩手前なんじゃないかという思いがあるからで、だってピアノロールですよ。ピアノロールというのはパンチ穴が空けられた紙ロールでもって制御される自動ピアノでありまして、ガーシュウィンの演奏による二台ピアノ版の『ラプソディ・イン・ブルー』のロールから、ピアノ独奏部分を取り出して復元して、それをオーケストラ(厳密にはジャズ・バンドですね)とあわせてみたという、— うん、確かにアイデアとしては面白いと思います。

けど、このピアノロールの再現性というのも馬鹿にできなくてですね、二十世紀当初のアメリカでは自動ピアノメーカーがしのぎを削って、どれだけ本物の演奏らしさを再現できるかというのに躍起になっていたから、この演奏がまさか機械仕掛けとは思われません。でも、やっぱり問題はあって、二台ピアノ版のロールが元になっているわけですから、他の演奏者のことなんて考えられてないわけです。ピアノの運動性、機能性でもって音楽が進行していくから、いくらなんでもおかしいというところが散見されて、けどアイデアとしては面白いんですね。

今演奏される『ラプソディ・イン・ブルー』は、本式のオーケストラでもって、とても豊かに、ゴージャスに、重厚に、という風なもんであるんですが、トーマスのものはといえば、1924年当時を再現するかのようなジャズ・バンドでの演奏ですから、ゴージャス・シンフォニック・オーケストラでは感じられないような独特の軽快さやのりがあって、やはり独特の面白さがあるのです。ほら、バロックの音楽を、当時の楽器や演奏慣習でもって演奏するという話がありますが、ちょうどそんな感じの新鮮さがあって面白い。だから、演奏に疑問があると思うのはモダン(?)の『ラプソディ・イン・ブルー』に親しんでいるからかも知れなくて、あながちトーマスの盤は悪くないかもなあと思うのですね。

でも、やっぱり最初に聴くなら今風の演奏をお勧めします。私が持っているのはたまたまバーンスタインの盤だったからこれを引き合いに出していますが、『ラプソディ・イン・ブルー』はさまざまな指揮者、オケ、ピアニストによって録音されています。なのでお勧めは本当に人それぞれ、さまざま。自分向きの演奏を探せると、それがきっと楽しいんじゃないかと思います。

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