2005年4月9日土曜日

季節を抱きしめて

 ふと思い出したようにやるドラ。最初は私のはじめてプレイした『サンパギータ』にしようかと思ったのですが、よくよく考えたらこれは秋のドラマでありました。プレイステーションでリリースされた初期やるドラ四部作は、記憶喪失のヒロインと出会った主人公というシチュエーションを共有する、四季のドラマであったのです。秋のドラマが最初にいいました『サンパギータ』、冬が私の最も好きな『雪割りの花』、夏が『ダブルキャスト』、そして春は桜の樹の下で出会ったヒロインとの物語『季節を抱きしめて』。記憶喪失という同一のモチーフを扱いながらも、それぞれがそれぞれの面白さ、よさを持っていて、私はとにかくこのやるドラというシリーズが大好きでした。

プレイステーションという、今振り返ってもスペックが潤沢とはいえないハードで、よくここまでやったものだという実現性の高さがすごかったのです。繰り返しとかの技法を多用して、ゲームマシンでフルボイスのアニメーション(『ダブルキャスト』、『季節を抱きしめて』は除く。この二作は、主人公がしゃべらないのだ)を実現していたのですから、よほどの努力や工夫があったのだろうと偲ばれます。それに企画もよかったのだと思います。選択肢によって展開が変わるドラマという、決して簡単には実現できないものを、あのプレステで作ったのです。CD-ROM二枚組という容量の制限もありながら、あそこまでの良質なものをリリースしたのですから、ただそれだけでも評価に値するシリーズでありました。

以前、『スラインディング・ドア』という映画で書いたときにも触れましたけれど、昔、科学博覧会で見た映画 — 観客の投票でドラマの展開が変わっていくという映画を、まさに自宅で楽しむことができる。私はあの時の映画のそういう仕掛けが面白くってしかたがなくって、けれど色々展開を試してみることができなくて欲求不満に思っていたりもしたもんだから、やるドラには飛びつきました。『サンパギータ』を皮切りに全作買って、CDも集めてファンディスクも買って、ああ、すまんね、私はものに執着するマニアだから、集めちゃったんですよ。

やるドラファンの中では、『季節を抱きしめて』が最もゲームらしく評価できるタイトルであるとされています。三人のヒロイン、記憶喪失の少女麻由と予備校時代から付き合いはじめたトモコ、そして隣に住む綺麗なお姉さんそれぞれとのハッピーエンドが用意されているところなど、実にそのころはやりのギャルゲーを髣髴とさせるではありませんか。ええ、こういう攻略対象が明示されるところなど、最もゲームらしく楽しめるのが『季節を抱きしめて』でありました。

やるドラにはグッド、ノーマル、バッドの三種に分類される複数のエンディングがありまして、クリアしたエンディングが一覧できるようになっているものだから、なんだか全エンディングを見ようとむきになってプレイしましてね、さらには見たシーンがパーセンテージで表示されるから、それも100%になるまでがんばったりして、けど残念ながら、私はどれも100%に達することなく終えました。100%になったからといってとりわけいいことってないんですけどね。全部のシーンを見た、すべてのルートをたどったという満足感と、100%達成おめでとうのグラフィックを見ることができる。ゲームを楽しむということに関しては、むしろ邪魔になるのがあの達成率表示なんではないだろうかと私は思っていました。

達成率を上げるためのプレイというのは、もはやゲームを楽しむというよりも、ルーチンワークでしかないんですね。そんなのあらためていうまでもない自明のことなのですが、既視のシーンをスキップしながら攻略チャートを横目にチェックして、まだ見ぬ選択肢の組み合わせを試すわけです。最初こそは二桁台で推移する達成率も、終盤には小数点二桁の変化にとどまるようになりまして、そうなればもうしらみつぶしといったほうがいい。極々わずかの違いを求めてプレイするんですが、こうなればもう面白くない。達成率100%を目指すことで、ゲームの主眼が質から量に移ってしまうんです。ええ、このことに気付いてから、達成率100%を目指すのはやめよう。量ではなく質を楽しもうと思うようにしたのですね。

いや、数値として達成率が出てしまうと、気になるのは確かなんですけどね。

私、思うんですが、自分の見たシーンを自由に組み合わせて、ドラマを自分で演出できるようなモードがあったら面白かったろうなと思うんです。シーケンスを記録したデータをメモリカードに保存して、友人と交換しあったりできたらきっと面白いし、達成率を上げるまた違う目的、魅力もあったんじゃないかと思います。

実現するのは簡単じゃないのかも知れませんが、クリアデータをリプレイ再生して、ドラマを通して鑑賞できるようになっていたのだから、こういうのも決して不可能じゃないと思うんです。オフィシャルなストーリーをよりドラマティックに盛り上げるのもいいし、脱線してまったく違う筋を作っても面白い。ちょっとした映像編集の楽しみみたいなのを、やるドラでできたんじゃないかと思っていたのでした。

やるドラはPS2でもリリースされたのですが、こうした魅力的な要素が追加されることはなく、むしろスペックに頼った派手な演出が目立つだけの楽しめないものになっていました。買うには買いましたが、あまり長く楽しもうというものではありませんでした。できることが増えるということが面白さに直結するわけではないと、あらためて学んだ気がします。そんなわけで、私には初期やるドラで充分なのです。

今度、PSP用に、この初期やるドラがリリースされるみたいですね。調べてみれば、追加されるのは設定画やCGギャラリー、あとはエンディングギャラリーといったところですか。

私にはプレイステーション用で充分な気がします。正直、このためにPSPを買おうという気にはなれないと思います。

CD

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