2020年11月24日火曜日

『まんがタイムきららフォワード』2021年1月号

 『まんがタイムきららフォワード』2021年1月号、発売されました。表紙は『夢喰いメリー』。今号をもって最終回を迎えたタイトル。堂々完結! の文字も踊ります。現界の至宝、ドーナツを手に笑顔を見せるメリーですよ。と思ったら、ああーっ、消えていってる! その周囲には、現界の、幻界の住民たちが描かれて、これら、まるで夢の、思い出の欠片たちですね。ずっとメリーとともにあった、そういっていい仲間たちだと思います。苦しいことも、つらいことも、くじけそうになったこともあったけれど、こうして最善の今を迎えることができたこと、それは本当によかった。いい表紙だと思います。

今月は新連載が1本、新作ゲストが2本です。

と、その前に。

『夢喰いメリー』

メリーと夢路の別れの場面と並行して描かれていくメリーたち幻界の住人たちが去った後の現界の様子。メリーがいったように、きっと忘れる。確かにそうなんですよ。勇魚と夢路の間にはメリーがおらず、クリスマス・イブにSTOに集まった面々も、なぜこうして知り合って、友達になったかを思い出せずにいる。なかだちとなった夢魔たちがいなくなっても、こうして変わらず友人関係を大切にしているこの子たちの様子を見れば、切なくもあり、寂しくもあり、けれどやっぱり嬉しさを感じることもあって、だからこそなのでしょう、メリーとの別れの時に夢路のいったこと、忘れないというその言葉、約束を果たしてくれたこと、それがなによりも嬉しかった。

メリーと夢路の対話に語られたこと、それがこの漫画のらしさを感じさせてくれました。ふたりの再びの出会いからの日々は響の筋書きどおりといえばそのとおりだった。この言葉が、我々は誰かの書いた物語を生きただけなのかという物語の登場人物からの問い掛けのようにも思われて、でもそうじゃないんだって、メリーが夢路が出会ったから物語が生まれたんだって、そういうメリーの言葉が、たとえ物語の登場人物にすぎなかったとしても、彼、彼女らが確かな存在として息吹とともに生きていたのだとそう主張するかのように思われて、ええ、まぎれもなく彼らはそこにいたんだって、私もそう思います。

しかし、終わりましたね。もう何年になるんだろう。余談になりますが、実はこのBlog、当初は雑誌掲載時の感想を書いていなかったのを、方針転換して途中から雑誌掲載作についても書くようになりました。それはいろんな要因、もうネタが出てこねえよとかね、あったんですけれど、実はきっかけを作ったのは『メリー』だったんですよ。ランズボロー・ノワール戦でのジョン=ドゥ呼び出し、あれにすっかりやられましてね、こういうののインパクトは単行本待ってちゃ駄目だなあ、みたいなことずっと思ってて、そこに他の要因が揃ったもので方針転換することとなった。だから、このBlogでは、極力『メリー』については書く、なにがなんでも書くと決まっていたんです。

『メリー』終わっちまいましたね。気持ちのいい、大好きなやつでしたよ、メリー。なんかひとつの区切りですね。感慨がありますね。

『アネモネは熱を帯びる』

ちょっと陰鬱さ、鬱屈を感じさせる導入。かと思ったらこの主人公、大槻凪紗はめちゃくちゃポジティブな人ですね。クールに見せて中身まで全部クールってわけじゃないってのがのっけから示されて好感触。入学した学校に関しては、第一志望ではなかった。受験に失敗して、いうならば望まない進学だった。と、ここでもまた鬱屈を感じさせたと思ったら、この状況にもメリット見出して、ポジティブに捉えなおしていこうという。

これ、前向きでいい傾向だと思う反面、どこか無理して飲み込む理由を見つけようともしているのかな。どうしても飲み込めないようなものが出てきた時、それでもポジティブであろうとするのだろうかな、この子は。

健全に見えてある意味不健全にもなりうる、そんな側面を思ったところに、まさにその飲み込みがたい存在が現れるのですね。うまいわ。過去、この子が受験に失敗した要因を作った子が現れた。ずっと休んでいた子。はじめて出会う同じクラスの隣の席の女の子。

小宮山茉白。

凪紗は忘れもしなかったんだな。受験会場へと向かう途中、倒れていたこの子を見つけたことで試験を受けることができなった。挑戦することさえできなかったという苦い記憶が拭えずにいるんですね。

そんな凪紗のわだかまりと、表面的には明るく振る舞う茉白の抱えている鬱屈が保健室でぶつかり、変質しうる、そんな可能性を感じさせた初回のラスト。ふたりの関係のはじまりで、変わりゆく、その第一歩かも知れないと思わせてくれた最初の山場でした。ああ、やはりここでも凪紗は前向きかも知れまんね。これはどうも根っからってやつっぽいですね。

『テンアゲ☆デーモン アゲハちゃん』

自室にて使い魔召喚の儀式を執り行う主人公。おどろおどろしい悪魔を呼び出すつもりだったのに、出てきたのはギャルギャルしい見習い悪魔のアゲハで、というんですが、ここからの展開、ちょっと驚いた。主人公、ミサは悪魔崇拝とかにかぶれてる中二病的ななにかかと思ったら全然違うの。そうか、この世界、普通に魔女とかが存在してるのか。母も魔女、娘のミサも魔女。だからめちゃくちゃ理解がある。当たり前みたいに朝食食べてるアゲハ。アゲハのペースに巻き込まれ気味のミサを見て、アゲハと一緒になってわいわいやってる母がもう最高で、お母さん、シコいはやめましょう、そういうこというのはやめましょう、いい大人なんですから。

アゲハのキャラクターがよかったと思います。基本明るくて、能天気で、後先考えてないみたいなところがあるんだけど、情に厚く、からっと、さらっとベタつかない、そんなところがよかった。学校で居場所のなかったミサのことも、売り言葉に買い言葉みたいになっちゃったりもしたけれどもさ、なにを置いても探しにきてくれたじゃん。ミサもひねくれちゃってるところあったけど悪い子じゃなかったしさ、アゲハもいい子だしさ、このふたりが互いに素直になるくだり、あれはよかったと思います。シンプルだけど、ちゃんとふたり向きあわせて、最後に残ったと思われた問題もさらりと解決してくれて、これ効果的! いいまとまり方していたと思います。

で、アゲハ、魔術の使いどころがいいですね。ここぞという時に使うのん? 人心に働きかけて惑わす。なるほど悪魔ですな!

『漁師の孫』

これは後編が必要では!? 卒業後の進路、自分の将来について、なにも思い描くことができないでいる藍海の心情に触れようとするかのような漫画です。漁師をやっている祖父の姿を見て育って、小さなころはかっこいいと思っていたけれど、今はそうは思えない。そんな屈折した年頃の、先のことも、今のことにも、迷ったり、思い悩んだり、焦ったりと、そんな心情に触れていくのだろう、そう思っていたんですね。

学校で友達からいわれた、漁師を継げばいいのではという言葉にモヤモヤしている藍海。だからといってありたい自分の姿も定まっていないし、でも漁師はないな、絶対ない、とりあえずこの家を出よう、そう思った矢先に祖父からいわれる漁師の仕事を継いでくれという言葉。このコンフリクト、さあ藍海はどんな答を出すんだい!?

と思ったところで終わられちゃあ消化不良ってやつですよ。さあさあ、藍海さん、ボールはキミに渡された。ここでなにを思い、どんな答を出そうかってところに、あなたの物語は描き出されるんですよ!

これ、前後編の構成ですよね。漫画自体は悪い感触じゃなかった。実際、物語はまだまだこれから。だから、ほんと、後編お願いします。

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